基本技術集3:現存する世界最古のクレーンの復元

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写真1,2:復元した模型と筆者
復元モデルの全景.本機の1/20スケールです.
私の身長に対比してイメージして下さい.
 

 
  • 世ヨーロッパにおける商業圏の海岸や河川に位置する都市は,物流の拠点となり,船着き場には,多くのクレーンが設置された.ドイツの北海沿岸,ライン河流域には中世に設置されたクレーンが現在も文化財として保護されており,一般に公開されているところもある.
  • 復元モデルとなった実機は1346年に設計・製造されたが,1797年には修理を施されて,19世紀まで実際に使われたもので,ドイツ・リューネブルグ*1に保存されている.当時のクレーンは人が中に入り回転させて動力源とした.19世紀におこった産業革命により,紡績機械,船舶,車両などの動力源として蒸気機関の恩恵を受けるようになったが,この頃まで人力,畜力に頼っていたクレーンも例外ではなかった.
  • 学・機械系の伊藤廣教授は,クレーンの専門家として,1983年より現在まで現地での調査を実施しているが,許容応力設計法による本機の強度評価を行った.
  • 同教授から,当時の設計図があるので1/20スケールのモデルを復元できないかと相談があり,長岡近郊の木型成型を扱っている会社と検討を重ねた。共同での設計図の判読,分析から製作手順,使用材料の選定等について,かなりの回数にわたり打ち合わせをおこない,二ヶ月後にようやく完成した.
  • この復元モデルの使用材料は,実機と同様に木材とし,タモ,シナ材*2を用いた.屋根には銅板を貼り付け,より本物らしくするために錆付け*3を施しているが,古色蒼然として現実感が漂う.さらに人形を配置することにより,当時の面影がイメージできたのではないかと思う.
  • 実機の最大つり上げ能力は,18世紀にイギリスから輸入された重量11トンの蒸気機関車をつり上げた記録が残っている。この復元モデルは果たしてどのくらいの能力があるのか興味深いが,各部位に接着剤*4使用のため,つり上げテストは行っていない.
  • 作方法は手動,自動の二種類について,製作者側と打ち合わせを行った.自動操作の場合,レバーシブルモーターを動力にして,ナイロンロープでつり上げを試みたがスリップしたため,タイミングベルトに変えて実験を行った.しかし,モデルのドライビイングホイールの軸受部が弱いため,ベルトの張力によって回転主要部に異常が認められ,自動操作は断念せざるを得ない状況となり,手動操作のみとなった.
  • 金属製と異なり木材の場合は回転部や軸受け部に多少のガタを持たせる必要から,微妙な調整が困難になった.やはりこの復元モデルも本機と同様に人力による動力源が適切であることを痛感させられた.また,我が国に現存する最古のクレーン*5の復元も興味深い.
  • ホームページの基本技術集の内容として,本文は,他といくらか趣きをことにするが,今後,皆さんが精密木型モデル,合成樹脂モデル,その他複雑で精巧な装置を製作される場合や興味ある方々の参考になればと考えて紹介させていただいた.なお,この復元モデルは,講義や演習の教材として使用される.
 
 
本機の仕様
旋回式ジブクレーン
型 式1346年設置時の仕様1797年改造時の仕様当時のクレーンの最大仕様
主要部分の材料木材(樫)木材(樫)及び鉄骨木材(樫)及び鉄骨併用
最大つり上げ荷重約5t約10t約10t
機体全高18.5m18.5m30m
最大揚程13m13m24m
巻上速度約1m/min約1m/min約1m/min
旋回範囲限定旋回全周旋回全周旋回
ジブ形状木製先細箱形断面木製先細箱形断面木製先細箱形断面
鉄骨支柱内蔵鉄骨支柱内蔵
ジブ個数112
カウンタウェートなしなしあり
作業条件雨天時作業中止全天候型全天候型
 
 
ジブ材料の力学的性質
木材(樫)鉄鋼(SS41相当)
縦弾性係数(GPa)12.0206.0
ポアソン比0.10.3
許容引張(MPa)9.0222.0
許容圧縮応力(MPa)8.0222.0
比 重1.07.85
 

 
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写真3:斜め上からのアングルです.
     作業室内が見えるように,
     半割りしました.→印は梯子.
写真4:ホイール部のズーム.
     人が→印の中に入り(対で2人)合図
     でホイールの中の突起板を踏み,
     ゆっくり廻しながらつり上げる.
 
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写真5:人が旋回棒を握り旋回します
     (対で2人).→印が軸受け部.
写真6:180°旋回.台部右側の青い
     部分は河に見立てている.
 
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写真7:正面からの全景.→印の人は
     梯子に昇ってメンテをしています.
     梯子はジブの補強も兼ねる.
写真8:手を触れているのは旋回棒.
     360°旋回する.
 
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写真9:正面の半割りカバーで,
     →印が銅板ぶきの屋根.
写真10:長い→印はジブ.
      短い→印の黒い部分がステー.
      修理の際,鉄製で補強.
      このため,つり上げ能力が一気に.
      増強された.
 
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写真11:→印が胴巻き部(チェーンを
      巻付ける)上部に昇る梯子
      も見える.
図面1:有名なALTER KRANの設計図.
      この図面に基づいて製作.
 
  • 参考資料 伊藤廣:移動式クレーンの発達史(3)−中世、近世の荷役運搬−「クレーン」第37巻2号,(1999)

*1 ハンブルグの南東40km,イルメナウ川にのぞむ都市.道路,鉄道の結節点で岩塩鉱床があり,10世紀以来の製造業の中心地.砂糖穀物,石炭,塩などの集散地でもある.人口約7万人.
*2 材質は硬く,加工性に優れる.縦弾性係数は樫より劣る.
*3 塩素系洗剤をガーゼに含ませ塗布.
*4 エポキシ樹脂系,2液混合型および木工ボンド.
*5 明治時代,イギリスから輸入され,現在は三菱重工長崎造船所に設置.動力源は電気.

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